「回収してもらった廃油って、その後どうなるんだろう?」——そう気になったことはありませんか。飲食店から廃食用油を定期的に回収してもらっているオーナーさんの多くが、一度は抱く疑問です。
「バイオ燃料になる」「飛行機の燃料になる」という話は耳にしたことがあっても、具体的にどんな用途に、どのくらいの割合で使われているのか——そこまで知っている方は多くないはずです。
このページでは、廃食用油が「回収された後」にたどる5つの主要なリサイクル用途を整理したうえで、今もっとも注目を集めているSAF(持続可能な航空燃料)への転換がどこまで進んでいるか、そして飲食店という排出元がこのリサイクルチェーンのどこに位置するのかを、順を追ってお伝えします。
回収された廃食用油は「何」に生まれ変わるのか
廃食用油は「ゴミ」ではなく、回収された瞬間から「資源」として動き始めます。では、回収された油は具体的に何に姿を変えるのか。まずは全体像を把握するところから始めましょう。
主要な5つのリサイクル用途
廃食用油の主なリサイクル先は、大きく5つに分かれます。
- 🔹 SAF(持続可能な航空燃料):航空機向けのバイオジェット燃料。廃食用油を精製・変換して製造する。現在、最も注目度が高く、価格上昇の主因となっている用途
- 🔹 BDF(バイオディーゼル燃料):トラック・バス・船舶などのディーゼルエンジン向けの燃料。廃食用油をメチルエステル化(化学反応)して製造する。以前は最大の用途だったが、SAF需要の台頭で相対的に縮小傾向
- 🔹 飼料原料:豚・鶏などの配合飼料に混合するエネルギー源として使用。長年、廃食用油の最大用途であり続けてきたが、燃料用途への転換が進んでいる
- 🔹 石けん・洗剤原料:油脂を加水分解して脂肪酸を取り出し、石けんや工業用洗剤の原料にする。比較的小規模な用途だが、製造コストが低いことから一定の需要が続いている
- 🔹 その他工業用途:潤滑油・塗料・インク・プラスチックの可塑剤など、多様な工業製品の原料として使われる。専門性が高く、用途は限定的
これらの用途に日本国内で発生する廃食用油(事業系だけで年間約40万トン)が流れていきます。しかも回収率は約98%と極めて高く、「捨てられている廃油はほとんどない」という状況です。つまり、廃食用油はすでに高度に資源化・産業化されたマテリアルなのです。
用途ごとの需要トレンド
廃食用油のリサイクル用途は、近年その構成が大きく変わってきています。もともと最大だった飼料原料は全体の約65%を占めていましたが、縮小傾向にあります。代わりに急拡大しているのが、燃料用途——とりわけ輸出向けのSAF・BDF原料です。
2021年に約3万トンだった廃食用油の輸出量は、2024年には約12万トンへと4倍近くに膨らみました。この多くはEUや東南アジアのバイオ燃料メーカー向けです。世界中でSAFとBDFへの転換が進む中、廃食用油の「奪い合い」が起きており、それが取引価格の上昇(2021年約95円/kgから2024年約130〜150円/kg)につながっています。
💡 現在の構成比率(2024年推計):飼料原料 65% / 輸出(BDF・SAF原料)30% / 工業原料 13% / 国内BDF 5〜8% / 国内SAF 1%未満。ただし国内SAFは2025年以降に急拡大が見込まれており、この比率は今後大きく変わる可能性があります。
SAF(持続可能な航空燃料)への転換

廃食用油のリサイクル先として、いま最も勢いがあるのがSAFです。「飛行機が廃油で飛ぶ」という話は数年前まで絵空事のように聞こえていましたが、今や現実のビジネスとして動き始めています。
なぜ航空業界が廃食用油を求めているのか
航空業界は、温室効果ガスの排出削減において特に難しい立場にあります。電気自動車のように「電動化」で解決できるほど単純ではなく、現時点では「バイオ由来の燃料に切り替える」ことが最も現実的な脱炭素手段です。SAFはその中核を担うものとして、世界中の航空会社と政府が注目しています。
SAFは従来の航空燃料と比べ、ライフサイクル全体での CO₂排出量を最大80%削減できるとされています。そしてSAFの原料として最も広く使われているのが、廃食用油(UCO:Used Cooking Oil)です。パーム油などの新規農作物から作るバイオ燃料と違い、廃食用油は「どうせ捨てる油」を再利用するため、食料との競合も生じにくい。これがSAFにとって廃食用油が理想的な原料である理由です。
EUでは2025年から航空燃料へのSAFブレンドが義務化されており、その割合は2030年に6〜10%まで引き上げられる予定です。こうした規制の波が、廃食用油の国際的な需要を一気に押し上げています。日本国内でも、2025年の国内SAF需要は30万キロリットル、2030年には171万キロリットル(燃料全体の10%)に達するという政府目標が掲げられています。
JAL・ANAの調達拡大と国内プラント稼働
日本の航空大手もSAFの調達を急速に拡大しています。JAL(日本航空)は2050年までに使用燃料の10%をSAFに切り替える目標を掲げており、すでに複数のバイオ燃料メーカーとの長期調達契約を締結しています。ANAも同様の方向で動いており、国内外のSAFサプライヤーとの連携を強化しています。
✅ 国内での大きなマイルストーンが、2025年1月に試運転を開始した SAFFAIRE SKY ENERGY(和歌山県)です。これは廃食用油を原料にSAFを製造する国産プラントであり、国内における廃食用油→SAFの製造が本格的に動き出したことを意味します。これまで「廃食用油を輸出してSAFにする」というルートが主流だったのが、「国内で廃食用油をSAFに変える」サプライチェーンが確立されつつあります。
「Fry to Fly Project」という官民連携の取り組みも進んでいます。飲食店・自治体・航空会社・回収業者が一体となり、廃食用油をSAFに転換するサプライチェーンを構築するプロジェクトで、すでに約200団体が参画しています。廃食用油のSAF化は、もはや一部のエネルギー企業だけの話ではなく、飲食店や自治体が「参加できる」社会インフラになりつつあるのです。
バイオディーゼル・飼料・その他の用途
SAFが注目を集める一方で、廃食用油のリサイクルを長年支えてきたのは別の用途です。BDF(バイオディーゼル燃料)と飼料原料は、廃食用油産業の基盤として今も重要な役割を担っています。
BDF(バイオディーゼル燃料)の現在地
BDFは廃食用油をメチルエステル化という化学反応で変換し、ディーゼルエンジン用の燃料として使うものです。バス・トラック・船舶・農業機械など、電動化が難しい大型輸送手段の脱炭素化に貢献してきました。
日本国内でもBDF製造の歴史は長く、地方自治体のバスや清掃車がBDFで走るという取り組みは各地で行われてきました。レボインターナショナル(京都本社・名古屋工場)のような国内最大級のBDFメーカーも存在しており、廃食用油のリサイクル先として確固たる地位を持っています。
ただし近年、BDFは採算性の悪化という課題を抱えています。廃食用油の原料価格が高騰する中、製造コストと燃料販売価格のバランスが崩れてきているためです。国内BDFは全体の5〜8%を占めるにとどまり、相対的なシェアは縮小傾向にあります。それでもBDFは輸送・物流の脱炭素化において不可欠な技術であり、SAFと並んでリサイクル用途の両輪を担う存在として今後も一定の需要が続くと見られています。
飼料原料・石けん・工業用途
「廃食用油が燃料になる」という話は近年になって広まりましたが、それ以前から廃食用油は飼料として活用されてきました。豚や鶏の配合飼料に植物性油脂を添加することで、エネルギー密度を高めながらコストを抑えられるためです。現在も全体の65%という最大のシェアを占める用途ですが、輸出やSAF向けの需要が高まる中で、飼料原料への供給量が減るのではないかという懸念も生まれています。
石けん・洗剤原料への用途は、古くから家内工業レベルで行われてきたリサイクルの形です。廃食用油を加水分解すると脂肪酸が得られ、これが石けんの基材になります。環境意識の高い飲食店が「自分たちの廃油から作った石けん」を活用する取り組みも見られるようになりました。規模は小さいですが、地産地消型のリサイクルとして一定の意義があります。
その他の工業用途としては、潤滑油や塗料の原料、プラスチックの可塑剤(硬さを調整する添加剤)などへの利用が挙げられます。専門的な加工が必要なため大量に使われるわけではありませんが、廃食用油の多様な活用可能性を示す例として知っておいて損はありません。
飲食店はリサイクルチェーンのどこにいるのか
SAF・BDF・飼料……と用途の話をしてきましたが、飲食店はこのリサイクルチェーンの中でどういう位置にいるのか、少し立ち止まって整理しておきましょう。
排出元としての役割と責任
廃食用油のリサイクルチェーンは、大きく「排出元 → 回収業者 → 精製・加工メーカー → 最終用途」という流れで動いています。飲食店はその最上流、つまり「原料を生み出す排出元」です。
排出元の役割は、単に油を出すだけではありません。廃油の品質を保つことが、リサイクルチェーン全体の効率に直結します。水分が多く混入した油、異物だらけの油は、精製工程でのコストを上げ、最終製品の品質を下げます。逆に言えば、飲食店が廃油の品質を意識して管理することは、リサイクルチェーン全体への貢献でもあります。
もう一つ重要なのが、「正規ルートを通じた廃油の排出」です。廃食用油は産業廃棄物として扱われるため、適切な許可を持つ業者に引き渡す義務があります。無許可業者への廃油の提供は、環境法令上の問題につながる可能性があります。
- ✅ 廃油に水・異物が混入しないよう管理する(密閉容器の使用、揚げカスのこし取り)
- ✅ 産業廃棄物収集運搬業許可を持つ業者に引き渡す(許可証の確認が義務)
- ✅ 廃油の種類(植物性か動物性か)を把握しておく(用途によって分別が必要になるケースがある)
廃油の品質管理は、飲食店にとって「面倒な追加作業」ではなく、「リサイクルに参加する責任の一部」として捉えると、意識が少し変わってくるはずです。
「自分の店の廃油がSAFになっている」と言える時代
廃食用油市場の規模は2024年時点で約620億円。これが2033年には約1,050億円にまで成長する見込みです。背景にあるのは、SAFをはじめとするバイオ燃料需要の拡大であり、廃食用油という「資源」への世界的な関心の高まりです。
こうした流れの中で、飲食店の廃油がリサイクルチェーンを通じてSAFになる——という事実は、もはや「将来の話」ではありません。2025年に国内SAFプラント(SAFFAIRE SKY ENERGY)が稼働を開始したことで、「名古屋の飲食店から出た廃油が和歌山で精製されてSAFになり、国内の飛行機の燃料として使われる」というサプライチェーンが現実のものとして機能し始めています。
これは環境や社会貢献の話だけではありません。お客様や求職者に対して「うちはSDGsに取り組んでいます」と言う時、「廃油をリサイクルに出しています」という事実は、具体的な裏付けとして機能します。「自分の店の廃油がSAFになって飛行機を飛ばしている」と説明できるのと、「なんとなくリサイクルしている」では、伝わる力がまるで違います。
💡 廃油の行き先を把握していない飲食店は、まず回収業者に「うちの廃油はどのようにリサイクルされていますか?」と聞いてみることをお勧めします。透明性の高い業者であれば、きちんと説明してくれるはずです。逆に、説明ができない業者であれば、それ自体が業者を見直すサインかもしれません。
まとめ
廃食用油のリサイクル先と、飲食店がそのチェーンの中でどういう位置にいるかを整理してきました。最後に要点をまとめておきます。
- ✅ 廃食用油の主なリサイクル先は5つ:SAF・BDF・飼料原料・石けん原料・工業用途。現在は燃料用途への転換が急速に進んでいる
- ✅ SAF需要が廃食用油市場を塗り替えている:国内需要は2025年の30万kLから2030年には171万kLへと急拡大する見込み
- ✅ SAFFAIRE SKY ENERGY が2025年に稼働開始:国産廃食用油→SAFのサプライチェーンが現実になった
- ✅ 廃食用油市場は成長産業:2024年約620億円から2033年には約1,050億円規模へ
- ✅ 飲食店はリサイクルチェーンの「排出元」:廃油の品質管理と正規業者への引き渡しが、チェーン全体の質を左右する
- ✅ 「廃油がSAFになっている」という事実は、今すでに語れる:環境配慮のPRに具体的な根拠を持たせられる時代
廃食用油の行き先を知ることは、「捨てるだけの油」という認識を根本から変えることにつながります。自分の店から出た廃油がどんな形で社会に還っていくか——それを理解したうえで廃油管理に向き合うと、日々の作業への見え方が少し変わってくるはずです。
OIL BEESでは、回収した廃食用油がどのようにリサイクルされているかについても、オーナー様にわかりやすくお伝えしています。「うちの廃油はどこに行っているの?」「SAFになることを証明する書類はもらえるの?」という段階からでも、お気軽にご相談ください。



